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人工衛星の軌道要素とは?各軌道要素まとめ

人工衛星の軌道要素

人工衛星の軌道を話す上で、欠かせないのが軌道要素です。

難しそう…と思われがちですが、実は数字を読むだけならそんなに難しくありません。

読み方を知っていれば、あの数字の列を見るだけで軌道の形や大きさ、傾きなんかがなんとなくわかります。

軌道要素を読み取るのに数式も計算も必要ありません。
軌道要素はわずか200字足らずですが、ここには軌道上で起きている様々な現象や出来事がぎっしり詰まっているんです。

2行軌道要素とは?

ISS (ZARYA)
1 25544U 98067A   13158.50723059  .00016717  00000-0  10270-3 0  9040
2 25544  51.6453 156.3482 0010707  41.5842 318.6122 15.50690189 33209

これが2行軌道要素(TLE/Two Line Elements)と呼ばれるフォーマットで書かれた国際宇宙ステーション(ISS)の軌道です。

この数字は、衛星の番号や、軌道の形、その軌道の何処に衛星がいるか、を表しています。
つまり、人工衛星の位置を計算するための「材料」みたいなものです。

この数列を衛星の追跡用ソフトなどに読み込ませると、その衛星が今どこを飛んでいるかとか、いつ頃近くを通るかが分かります。

今回はこのISSの軌道を例に解説をしていきます。

これは元々はパンチカードで出力されることを意図したフォーマットです。
それくらい古い形式なんですね。
各値は先頭から何文字目、という形で指定されています。

必ずしもスペースで区切られてはいませんし、逆に数字の間に挟まっているスペースの数にも意味があるので、勝手に足したり引いたりしてはいけません。

この軌道要素のカタログを管理しているのはアメリカ戦略軍 宇宙統合機能構成部隊 統合宇宙作戦センター(US Strategic Command, Joint Functional Component Command for Space, Joint Space Operations Center/USSTRATCOM, JFCC SPACE, JSpOC)という、やたら長い名前の組織です。

かつて軌道上物体の監視は、北米防空司令部、通称NORADがやっていましたが、今ではこの組織が引き継いでいます。
今はNORADは弾道ミサイルと北米に侵入する国籍不明機の監視とサンタクロースの追跡が主な業務。軌道上で起きていることは戦略軍の管轄です。

一般名(Common Name)

ISS (ZARYA)
1 25544U 98067A   13158.50723059  .00016717  00000-0  10270-3 0  9040
2 25544  51.6453 156.3482 0010707  41.5842 318.6122 15.50690189 33209

最初の行は衛星の名前です。
二行軌道要素なのに3行ある!と細かいことをいう人がいるかもしれませんが、これはわかりやすくするためについているただのラベルです。

本来はなくても計算には支障はありませんが、ここにも重要な情報が入っています。幾つか例を上げましょう。

 

KMS 3-2
1 39026U 12072A   13196.91766204  .00003762  00000-0  22501-3 0  6568
2 39026 097.3749 244.0758 0058535 150.0385 204.0808 15.10194442 32568

 

UNHA 3 R/B
1 39027U 12072B   13195.14255849  .00005806  00000-0  35976-3 0  3301
2 39027 097.3782 241.8864 0070003 160.6830 199.7594 15.08076508 32274

 

UNHA 3 DEB
1 39028U 12072C   13195.14455520  .00007643  00000-0  42269-3 0  1919
2 39028 097.4146 244.2323 0049631 157.3537 202.9737 15.13078932 32351

これは、某国の「マスメディアがミサイルと称する事実上の衛星」の打ち上げの際に出た3つの軌道上物体の軌道要素です。
それぞれの1行目の一般名に注目して下さい。

一つ目の「KMS 3-2」、末尾に何もついていないのがペイロード、積荷です。要するに衛星のことですね。英字の意味は「Kwangmyŏngsŏng-3 Unit 2」の略、「光明星3号2号機」です。

二つ目「UNHA 3 R/B」、末尾にR/Bとついているのはロケットボディ(Rocket Body)、つまりロケットの上段です。最終的に衛星を軌道上に投入するロケットの最終段は衛星とほぼ同じ地球周回軌道に乗ってしまうので、ちゃんとカタログに乗っているんです。「UNHA 3」は「銀河3号」ですね。

そして三つ目「UNHA 3 DEB」、末尾にDEBとついているのはデブリ、ゴミです。衛星と最終段をつなぐアダプタや、ロケットの回転を止めるためのデスピナと呼ばれるパーツ、スラスタのカバー、そして壊れた衛星の破片などがこれにあたります。

軌道上には、カタログ化され、常時追跡されているだけでも16000個以上の物体があります。

そのうち運用されている衛星は一割ほど。残りはいわゆる「スペースデブリ」というやつです。これには、先ほど書いたロケットボディ、デブリ、そしてペイロードのうち運用が終わったものが含まれています。
ちなみに、現在運用中か否か、ということは名前や軌道要素だけ見てもわかりません。

行番号(Line Number)

ISS (ZARYA)
1 25544U 98067A   13158.50723059  .00016717  00000-0  10270-3 0  9040
2 25544  51.6453 156.3482 0010707  41.5842 318.6122 15.50690189 33209

一行目と二行目の冒頭は行番号です。わざわざ説明するほどのものじゃありませんね。

ただ、これらの数値がパンチカードで記録されていた時代には重要な意味を持っていました。
パンチカードには1枚で1行分のデータしか入りませんから、ここで1行目か2行目かを見分けていたんです。

衛星カタログ番号(Satellite number)

ISS (ZARYA)
25544U 98067A   13158.50723059  .00016717  00000-0  10270-3 0  9040
25544  51.6453 156.3482 0010707  41.5842 318.6122 15.50690189 33209

次は一行目と二行目共通のここです。
これは衛星カタログ番号、カタログに記載された物体の通し番号です。ただし打ち上げ順ではありません。

スペースデブリなど、後から発見されたものはそのつど登録されます。栄えある00001は当然スプートニク….ではなくスプートニクを打ち上げたロケット「SL-1 R/B」に割り当てられています。
2013年6月7日時点で39176個の登録があります。
ちなみに半分近くはまだ軌道上にいます。

2013年の時点で軌道上にある最古の物体は、衛星カタログ番号「00005」、1958年3月に打ち上げられた世界で4番目の衛星「VANGUARD 1」です。

VANGUARD 1
1 00005U 58002B   13196.14891694  .00000203  00000-0  26510-3 0  1143
2 00005 034.2466 097.5912 1850257 133.8410 243.0801 10.84328316930706

VANGUARD 1」は1964年に機能を停止しましたが、まだ軌道上を回っています。
地球から一番遠ざかる遠地点高度が約4000km、一番近づく近地点高度が約650kmありますから、まだ数百年は落ちてこないですね。

軍事機密種別(Classification)

SS (ZARYA)
1 25544U 98067A   13158.50723059  .00016717  00000-0  10270-3 0  9040
2 25544  51.6453 156.3482 0010707  41.5842 318.6122 15.50690189 33209

1行目の衛星カタログ番号の後ろについているのは、機密かどうかを表す符号です。
UはUnclassifiedの略。機密ならここはSになっています。
我々が見ることができる軌道要素は全部ここがUです。

実は世界中のアマチュア観測家が人工衛星の観測をやっていて、多くの機密衛星の軌道がわかっています。
衛星の目的と打ち上げ時間、方角などが分かれば、おおよその軌道の見当がつきます。
それであたりを付けてカメラを空に向けていると、そのうちにそれらしい衛星が通ります。その結果から予想をやり直して更に数字の精度を上げて…とやるわけです。

ネット上にもそうやって観測された衛星の軌道要素が公開されています。
衛星を観測するのに制限はありませんし、有志が勝手に観測して、その観測情報をアップしているんですね。

国際識別符号(International Designator)

ISS (ZARYA)
1 25544U 98067A   13158.50723059  .00016717  00000-0  10270-3 0  9040
2 25544  51.6453 156.3482 0010707  41.5842 318.6122 15.50690189 33209

国際識別符号です。カタログ番号とは違い、こちらは打ち上げ順に付けられます。「98067A」を書き下すと「1998-067A」となります。
これは「1998年の67番目の打ち上げで出た物体A」という意味です。
国際宇宙ステーションの最初のモジュールであるZARYAの打ち上げですね。
同じ打ち上げで複数の物体が軌道に乗ることはままありますので、それを区別するために枝番がA,B,C..とつきます。Zまで行くと次はAA, AB, AC…となります。

この枝番の付け方はどうやら、ペイロード、ロケットボディ、デブリ、という順番で付けられることが多いようです。
「一般名」の項目で例にあげた「某国の衛星」もそうなってますよね。
複数の衛星が上がる時は、たとえばA,Bがペイロード、Cがロケットボディ、D以降がデブリという感じになることが多いようです。

ちなみに、単一の打ち上げから発生した物体の数としては国際識別符号「1999-025」のものが最大です。
これは1999年に中国が打ち上げた気象衛星「風雲1C(FENGYUN 1C)」。
2007年に中国がこの衛星をターゲットに行った破壊実験によって膨大な量のデブリを生み出しました。
2013年7月の時点で、カタログに約3380個の破片が登録されています(カタログに掲載されているのはこれまでに位置がわかったものだけです。
実際の破片の数は数万~十数万個とも言われています)。

元期(Epoch)

ISS (ZARYA)
1 25544U 98067A   13158.50723059  .00016717  00000-0  10270-3 0  9040
2 25544  51.6453 156.3482 0010707  41.5842 318.6122 15.50690189 33209

ここまではカタログの番号でしたが、次は衛星の軌道を決めるのに必要な数字の一つ目「元期」です。
これはこの軌道要素の基準となる日付です。
先程も書いたように軌道要素というのは衛星がいつ、どんな形の軌道の、何処にいたかを表す数字です。
その「いつ」を示す数字がこれです。

最初の二文字が年の下二桁、残りの数字はその年の協定世界時(グリニッジ標準時と同じ、日本標準時-9時間です)の1月1日午前0時からの経過日数です。
「13158.50723059」は「2013年158.50723059日目」、西暦に直すと、2013年6月7日 12時10分24秒(日本時間21時10分24秒)になります。

実は、TLEには2057年問題があります。見ての通り年を示す数字が2桁しかないので、2057年を過ぎると、最初の衛星が打ち上げられた1957年と2057年がカタログ上で区別ができなくなるんです。

今後の課題ですね。

平均運動の1次/2次微分値 (First/ Second Time Derivative of the Mean Motion)

ISS (ZARYA)
1 25544U 98067A   13158.50723059  .00016717  00000-0  10270-3 0  9040
2 25544  51.6453 156.3482 0010707  41.5842 318.6122 15.50690189 33209

これは空気抵抗を示す数字です。

これは後で説明する「平均運動」という数字がどう変化していくかを示す数字、なんですが、実は今一番メジャーに使われているSGP4と呼ばれるアルゴリズムでは使いません。

なので過去の歴史ですね。覚えなくて大丈夫です。

B STAR(B*)抗力項(BSTAR drag term)

ISS (ZARYA)
1 25544U 98067A   13158.50723059  .00016717  00000-0  10270-3 0  9040
2 25544  51.6453 156.3482 0010707  41.5842 318.6122 15.50690189 33209

これは空気抵抗を示す数字です。

こっちは過去の違って今も使われている現役の数字です。
これは頭に小数点が省略されていて、さらに「-3」が「×10のマイナス3乗」という意味です。「10270-3」は 実際の数字に直すと「0.00010270」ということになります。

宇宙といっても、地球のすぐそばはけっこう空気があります。
高度400kmという比較的低いところを飛ぶ衛星は、空気抵抗でどんどん高度が下がってくるんです。国際宇宙ステーションなどもけっこう頻繁にスラスタを吹いて高度を調整しています。

空気の影響は大きくて軽い物体は大きく、小さくて重い物体は小さくなります。

これはそういう衛星の空気の影響の受けやすさと、その衛星が飛んでいる辺りの大気の状態が反映された数字になっています。

大気の影響による軌道のズレはこの数字である程度補正ができますが、それでも限界があります。たとえば、空気の密度は太陽活動の影響などを受けてけっこう変動があったりします(太陽の活動が活発になると、大気の上層部が膨らむんです)。

他にも衛星の軌道は太陽光圧や月や太陽の重力などの影響を受けます。なので、そもそも軌道要素というのは長持ちしません。
TLEは鮮度が大事。おいしく食べられるのはせいぜい1~2週間程度です。
それ以上過ぎるとだんだんズレが大きくなって、正確な予測ができなくなります。
そのため、軌道上の物体は24時間体制で常時観測されカタログも常にアップデートされています。

軌道モデル(Ephemeris Type)

ISS (ZARYA)
1 25544U 98067A   13158.50723059  .00016717  00000-0  10270-3 0  9040
2 25544  51.6453 156.3482 0010707  41.5842 318.6122 15.50690189 33209

これはこの軌道要素を計算するのに使うべき計算方法、アルゴリズムの種類を表す符号です。

実はこの符号は使われていません。常にゼロ、「不明」です。

わからないはずないでしょ、と思うんですがいつもゼロなんです。

案外、適当ですね。

まとめ

長々とお付き合いありがとうございました。

もう皆さんにとって軌道要素(TLE)は「暗号のような数字」じゃありませんね。

最初にも書きましたが、軌道要素には軌道の形や衛星の位置がそのまんま書いてあるだけです。これを使って人工衛星の位置を予測するにはいろいろ難しい計算が必要ですが、その意味を理解するだけなら、この通り数式も、計算も要りません。

たったこれだけの数字を一連の数式に放り込んであげるだけで、人工衛星の位置はぴたっと決まります。

国際宇宙ステーションは、どこまでも厳密な物理法則に従って、これらの数字が指し示す場所と時間に、私たちが見上げる空を通り過ぎて行きます。

おわりに

今回は軌道要素についてまとめました。

最後までご覧頂きありがとうございました。