人工衛星の軌道を考えるうえで、必須となるのが人工衛星の軌道計算式である。
今回はこの軌道計算式で欠かせないシミュレーションプログラム「iEarth Satellite」を紹介します。
人工衛星の打上げシミュレーションプログラム “iEarth Satellite”
人工衛星の打上げシミュレーションプログラム “iEarth Satellite”においては、オイラー法およびルンゲ・クッタ法による数値計算により衛星の軌道を計算しています。
ここでは水平方向の発射に限定して、人工衛星の軌道の理論式を示すとともに“iEarth Satellite”の改良版を紹介します。改良版では数値計算による軌跡に加えて、理論軌道も表示されます。
人工衛星の軌道の理論式の導出
ここでは、人工衛星の軌道を理論的に論ずることが可能な理論式を初学者向けの用語を用いて導出してみる。 ・人工衛星の軌道に関する運動方程式(2階の微分方程式): x"= -GMx/r3 y"= -GMy/r3 ここで、 G : 万有引力定数 M : 地球の質量 r : 地球の中心と人工衛星の距離、r2 = x2 + y2 を初期条件[時刻t=0 で x=r0, y=0, 速度v=v0]で解きます。 ・直交座標系で表現されたこれらの式を極座標系(r,θ)に変換します。両者の関係 x = rcosθ y = rsinθ より、 x' = r'cosθ - rsinθθ' x" = r"cosθ - 2r'sinθθ' -rcosθ(θ')2 - rsinθθ" y' = r'sinθ + rcosθθ' y" = r"sinθ + 2r'cosθθ' -rsinθ(θ')2 + rcosθθ"
・加速度の動径(r)方向成分:Ar Ar = x"cosθ + y"sinθ = r" - r(θ')2 加速度の方位角(θ)方向成分:Aθ Aθ = -x"sinθ + y"cosθ = 2r'θ' + rθ" = (r2θ')'/r ・力の動径(r)方向成分:Fr = -GMm/r2 力の方位角(θ)方向成分:Fθ = 0 ・従って、極座標系での運動方程式は r" - r(θ')2 = -GM/r2 ・・・(式1) (r2θ')'/r = 0 後者の式より r2θ' = c1 (c1: 積分定数) mr2θ' = mc1 左辺は角運動量(mrv)であり、これが一定であることから t=0 での初期値 r = r0, v = v0 を代入して (これ以降は打上げ角度α=0度の水平方向発射の場合に限定) mr2θ' = mr0v0 r2θ' = r0v0 ・・・(式2)
・(式2)のθ'を(式1)に代入すると、動径r方向の2階の微分方程式が得られます。 r" -(r0v0)2/r3 + GM/r2 = 0 ・変数の置換 u = 1/r を行ない、整理すると(途中の過程は省略) d2u/dθ2 + u = 1/L ここで、L = (r0v0)2/(GM) ・この解は u = 1/r = Acos(θ+β) + 1/L (A, β: 積分定数) θが0のときrが最小(u が最大)となるように角度を設定すればβ=0となるから u = 1/r = Acos(θ) + 1/L r = L / (1 + εcosθ) ここで、 ε=AL :離心率 ・t=0で θ=0, r=r0 とすると r0 = L / (1 + ε) --> ε = L/r0 - 1 となり、結局(打上げ角0度、すなわち水平方向に発射される)人工衛星の軌道方程式は r = L / (1 + εcosθ) ・・・(式3) ここで、ε = L/r0 - 1 L = (r0v0)2/(GM) となります。 この式は極座標での円錐曲線(二次曲線)を表しています。
このように容易に理論式導出が可能となる。
本理論式の注意点
(注1)ε=0 すなわち L=r0 のときはr=一定となり、円軌道となります。 このときの初期速度v0は (r0v0)2/(GM) = r0 より、v0 = (GM/r0)1/2 : 第一宇宙速度です。 また、ε<1 のときは楕円、ε=1 のときは放物線、ε>1 のときは双曲線となります。 (注2)任意の打上げ角度αに対する軌道方程式は次のとおりです。 r = L / (1 + εcos(θ+β)) ここで、L = (r0v0cosα)2/(GM) β = tan-1[L/(L-r0)・tanα] ε = (L-r0)/r0/cosβ (注3)極座標系での運動方程式については、Wikipediaの「軌道(力学)」を参考にしました。
最後に
今回はオイラー法およびルンゲ・クッタ法による数値計算により衛星の軌道計算の理論式導出を行いました。
人工衛星の軌道計算に置いて初学者が学ぶ最初のポイントでした。
最後までご覧いただきありがとうございます。